低平地とは,狭義には「海岸や河川などの平均水位よりも低い沖積平野」と定義されます.しかし,私たちが定義する「低平地」とは,「海,河川,湖などの水域周辺にあって,水位変動の影響を受けやすい環境下にある平地」として広く定義しています.低平地の特性と課題のうち,水圏環境に関わる諸問題に着目しつつ,人間と環境,特に水質汚濁や生態系に関わるテーマついて研究し,環境保全を含めた工法・手法について取り組んでいきます.

 2010年4月より改組した「低平地沿岸海域研究センター」では,このような「低平地」に着目し,これを切り口とした国内唯一の学術研究機関として,有明海沿岸低平地域の諸問題はもとより,世界的な低平地研究の中核施設として広く研究成果を世界へ発信することを目指し,研究を進めています.

 

六角川河口堰から下流部の空撮(2010.6.6国交省所有”はるかぜ”号から撮影)。

 

<山西研究室紹介>

 土木工学はとかく,ハード面が注目されがちですが,市民工学として人々の身の回りにはこれら以外のテーマが数多くあります.本研究室では,水位変動の影響を受けやすい環境下にある佐賀・低平地沿岸水域の水環境や生態系に関わる研究に取り組んでいます.主なテーマは,干潟浅水域での水・底質環境と生息生物,底泥・懸濁物質の輸送問題,河川生態等で,土木工学と生態学を組み入れた生態工学的見地からのアプローチにより,様々な環境問題に取り組みながら,実社会での問題解決能力を身につけてもらいます.以下,本研究室で取り組んでいる内容について簡単に説明します.


「ヨシの流出機構とその有効利用を含めた対策の検討」

 本研究は,洪水時に河川から海域に大量流出する浮遊ゴミのうち,ヨシを主体とした草本性植物の河道内分布やその流出量の調査をもとに河道内での流動機構を解明し,浮遊ゴミとしてのヨシの流出量予測とその回収の効率化の検討を行っています.下の図は,牛津川で調査した漂着ゴミ種別毎の質量について,その分布を示したものです.8〜9割近くは自然系ゴミで,その主体はヨシとなっています.また,ヨシの河道内における水質浄化能や河川生態系内での構成要素としての機能をもとに,枯れヨシの資源化の可能性について検討を進めています.

2012.10.1〜2調査時における牛津川感潮域における種別漂着物の質量分布(山西ら,2013)


「高水敷における適正な植生管理に向けた実証実験および河川工作物による水際生態系に及ぼす影響評価」

 本研究は,河川管理上,重要な課題である治水と環境を加味しながら,六角川水系牛津川の感潮区間に設置したガタ土堆積制御とヨシ植生管理の実証実験を通して,適切な河道断面確保と河川環境保全の実現可能性を目指すものです.また,新たな河川工作物の設置に伴う生態系へのインパクト評価等も含め,試験施工区における流れ場と懸濁物輸送に関する調査,試験施工区におけるヨシ等の植生繁茂の長期モニタリング,ガタ土堆積抑制と適正な植生管理に向けた実用化の検討,河川水際改修が底生生物に及ぼす影響評価を実施している.下の写真は,ヨシの地下茎分布の観察とヨシの生長抑制策についての確認をしているところです.

武雄河川事務所との共同研究として,ヨシの植生管理のための現場実証風景(2012.11)


「強混合型感潮河川における処理水の広域的な挙動把握と沿岸水域への影響」

 有明海特有の大きな干満差を有する水域に排出された処理水の挙動特性は,上げ潮・下げ潮の動きとともに,河口部のみならず広く河川上流域の水生生物にも影響を及ぼします.また,下流部に拡がるノリ養殖をはじめとした水産生物や底生生物,そして広大な干潟環境にも影響しています.
 ここでは,主として窒素とリンの挙動を対象に有明海特有の干満差の中での栄養塩類の挙動と河川生態系あるいは河口干潟生態系に与える影響を調査し,特異な場での流域管理という観点から下水道が果たす役割について検討する.下の図は,放流口から放出された物質が流れとともに希釈・輸送されている様子を示しています.

放流口から放出された物質の輸送過程の計算例(山西,2013)


「河道内ガタ土の堆積メカニズムと水際植生管理に関する調査研究」

 本研究は,河川管理上、重要な課題である感潮区間のガタ土の堆積とガタ土堆積進行に伴うヨシ等の植生繁茂状況を把握し,適切な河道断面の確保と河川生態系維持を実現するための新たな方策の提案を目指すものです.また,有明海に河口を持つ河川には,六角川同様にガタ土堆積による河道管理上の課題を抱える河川が多数存在するため,本研究の成果は六角川水系のみならず,広く他河川においても活用が可能といえます.なお、本研究遂行には国土交通省九州地方整備局・武雄河川事務所調査課の全面的な協力も得ながら,実施しています。



○有明海湾奥部特有種のハラグクレチゴガニの様子(左)クロベンケイガニ(右).いずれも牛津川4.5km左岸にて撮影

※ハラグクレチゴガニがハサミを上げ下げする様子はこちら(動画)


「河川改修に伴う北川感潮域での水環境変化と生息空間への影響評価」

  宮崎県延岡市を流れる五ヶ瀬川水系北川では,1997年9月に発生した台風19号による大豪雨を契機に,河川生態系を配慮した河川改修がなされてきた.ここでは,河川汽水域での甲殻類を主体とした河川環境保全手法と生物生息空間の機能評価に関する現地調査と数値解析を行っている.

    



○六角川河口から4-5km左岸の様子.植生の繁茂,ガタ土堆積および水の流れにより河道断面が変化する.また,甲殻類を中心に汽水域の生物が棲息する.



○河岸に繁茂するヨシの植生調査状況





河川での調査風景

 

 研究室での主なテーマは,干潟浅水域での水・底質環境と生息生物,底泥・懸濁物質の輸送問題,河川生態等です.いずれも,年間を通した現地でのデータ収集,試料分析および数値解析などが必要となります.また,時定数の長い生物学的現象を取り扱う際には,地道さ,センス,意欲,そしてデータを読みとる力が求められます.


山西研究室の紹介PDFファイル
(2010年度進級学生用参考資料)


Laboratory Information (Subdivision of Water Environment)

(研究室の打ち合わせ風景)