目的・目標

有明海では,近年環境悪化が顕著であり,平成14年には「有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律」が定められ,翌年からは「有明海及び八代海の再生に関する基本方針」に則って原因解明と対策が進められてきた.しかし,まだ原因解明は一部にとどまっており,地元漁業者を中心に指摘されている諫早湾締切の影響についても研究者の意見が分かれている.原因解明が進まない最大の理由は,過去のデータ不足である.そこで本事業では,現況再現精度の高い生態系シミュレーションモデルを構築し,過去30年程度の有明海生態系の経年変化を計算することにより,諫早湾締切の影響を含めた長期的環境変化の実態と原因を明らかにする.また,諫早湾潮受堤水門を長期開門した場合のシミュレーションを行い,開門の効果について予測する.さらに,中長期開門調査を実施するにあたって有用な科学的知見を整理・提供する.こうした科学研究を進める一方で,公開ワークショップ等によって地元市民・行政との対話を実施し,研究成果の理解を進めるとともに,科学研究だけでは決定困難な「望ましい有明海環境のあり方」や「有明海の環境再生に向けた望ましい合意形成の方法」について検討する.

必要性・緊急性

有明海の環境異変問題の解決は地元地域からの強い要請がある研究課題である.特に,現在は佐賀地裁の諫早開門判決(平成20年6月)をきっかけに,多くの地元漁業者が求めていた諫早湾潮受堤水門の中長期開門調査の実施が検討されており,これに対して時期を逃さずに現在得うる限りの科学的知見に基づいた検討結果を提供するとともに,市民や行政との対話を通してそれらに対する理解を深めることは,地域貢献を重視する本学にとっての責務である.

独創性・新規性

本事業の特徴は,有明海異変の中心舞台に位置するという本学の立地特性を最大限に生かし,地元市民・行政との対話を進めながら研究を進める点にある.対話によって,研究成果に対する理解が進むだけでなく,研究者には問題解決のために何に力をいれるべきか再認識させる効果が期待される.本事業の主体は,諫早湾干拓事業に対して反対でも賛成でもなく,中立の立場に立ちながら,干拓工事及び開門調査の影響について正面から検討する.有明海の環境再生に関しては複数の研究プロジェクトが実施されているが,こうした取組は唯一のものであろう.また,本研究では有明海の生態系モデルを開発するが,これは非営利目的であれば広く利用できるよう将来的に公開することを想定している.こうした取組は,有明海の生態系モデルとしては唯一のものである.これに代表されるように,有明海の環境変動の理解・評価に役立つツールや情報を広く提供することに重点を置いている点も,本事業の特徴である.

報告書