テーマ1 諫早湾潮受け堤水門開門による環境変化

濱田孝治、日野剛徳、山口創一、横山勝英、山本浩一


1.はじめに

本研究の目的は、諫早湾干拓潮受堤防排水門開門のシミュレーションを実施し、開門が環境に与える影響を明らかにすることである。
開門によって環境改善の効果が期待される一方、諫早湾内の漁場を中心に悪影響が出る懸念も指摘されている。開門の目的として、諫早湾干拓事業が有明海異変に与えた原因の解明、或いはより積極的な環境改善などが考えられているが、いずれの目的においても、被害を最小限に留める中で最大の環境改善効果が得られるよう、事前に十分検討されなければならない。
開門を実施した場合、諫早湾は堤防建設以前とも現状とも異なる第三の状態に変化すると考えられる。開門についての情報は現在のところ短期開門調査以外にないため、数値シミュレーションによって環境変化の予測を行う必要がある。しかし、数値シミュレーションによって十分な成果を得るためには現地の詳細な情報が必要である。特に、開門調査に伴い諫早湾・調整池において懸濁物質輸送プロセスの大きな変化が予想されるため、底質の詳細な情報が得られていることが望ましい。
そこで本研究では、今年度は流況についての高精度の開門予測シミュレーションを実施すると同時に、特に諫早湾および調整池内において底質調査を実施した。


2.開門の数値シミュレーション

図1 計算領域
図1 計算領域

有明海全域を対象とし、諫早湾干拓潮受堤防排水門を解像できる計算格子を用いて開門影響予測の流動数値シミュレーションを行った(図1)。
対象とする期間は、プロジェクトで大規模な調査を実施しており、状況を良く把握することの出来る2006年夏とした。使用した数値モデルはFVCOMをベースとして改良を施したもので、有明海総合研究プロジェクトにおける既往の研究でその精度については確認済みである。排水門の開門状態は、重力流の速度に排水門の開口率をかけたものを最大流速として流速を制限することによって表現した。そして、調整池への海水導入を行わず排水のみとした場合を含む複数の開門条件を想定したシミュレーションを行い、その結果を比較した。

図2 開口率と潮受堤防付近の最大流速分布の関係
図2 開口率と潮受堤防付近の最大流速分布の関係

開門によって排水門の両側で流速が増大し、開口率が大きいほど洗掘のリスクは増大した(図2)。一方、調整池内の成層強度は開口率20%の時は潮受堤防が存在しなかったときと同程度まで増大するが、より大きく開けたときにはむしろ成層強度は減少する、というように、貧酸素水塊発生のリスクは必ずしも開口率に従って大きくなるわけではなかった(図3)。また、開口率が小さくとも、調整池から放出される水について、予め海水によって希釈されることを期待出来ることがわかった。

図3 開口率と調整池内・有明海奥部(佐大タワー)の表層・底層密度差変動の関係
図3 開口率と調整池内・有明海奥部(佐大タワー)の表層・底層密度差変動の関係

諫早湾外ではこのような顕著な差は見られなかったが、有明海奥部では20%開門の時のみ出水時の密度差が他のケースより若干ではあるが減少しており、物質輸送に何らかの影響が現れていることが示唆された(図3)。さらに、有明海全域で比較すると、開門によって表層流速の増大が島原半島沿いに見られたり、諫早湾港から熊本沖にかけて表層塩分の分布に差が生じたりするなど、広域にわたって影響が現れることが示唆された。
今後は懸濁物質モデル、生態系モデルを組み合わせ、より直接的な環境影響予測を行う予定である。


3.諫早湾・調整池底質調査

諫早湾・調整池内の浮泥・底泥の垂直分布の状態を調査し、底質の強度評価を行うため、また、再懸濁による栄養塩負荷を推定するため、RI(放射性同位元素)コーン試験および底泥サンプリングを組み合わせた浮泥・底泥調査を実施した。
本調査では、三成分(先端抵抗、周面摩擦、間隙水圧)と、湿潤密度が、1回の貫入で得られるRI・BG同時測定タイプのRIコーン(All in oneタイプ)を用いた(図4)。また、小型の漁船を用いて調査を行うため、コーンプローブに貫入予定深度に応じた本数のロッドと重りを取付け、その自重によって貫入を行う自重貫入方式を採用した。底泥は、潜水士がシンウォールチューブを直接浮泥・底泥層に貫入して直接採取した。
調査は2010年12月と2011年2月に行われ、計70箇所のRIコーン貫入試験と26箇所の底泥サンプリングが行われた。調査地点位置を図5に示す。また、調査結果の一部として、底泥・浮泥の分布状況を図3に示す。
今後は、本調査の結果を元に諫早湾および調整池内の再懸濁特性および栄養塩負荷のマッピングを行い、開門シミュレーションを含む有明海の海洋環境数値シミュレーションの入力データとする予定である。また、本研究の成果はそれにとどまらず、有明海という海をよりよく知るためにも用いられる。本調査で得られた泥の分布状況や、採取した泥を用いた分析・実験結果が、河川からもたらされた泥が海底に堆積しやがて地盤となっていくプロセスを明らかにするために役立つと期待される。

図4 RIコーン概要
図4 RIコーン概要
図5 底質調査地点
図5 底質調査地点
図6 Line C, 5における浮泥体積状況
図6 Line C, 5における浮泥体積状況