低平地地圏科学研究分野における平成23 年度の研究の取組

日野剛徳

1. はじめに

佐賀大学低平地沿岸海域研究センター・低平地地圏科学研究分野では、有明海沿岸低平地域を具体的な研究フィールドとして、 当地における地盤および地盤環境に関する諸問題について、第四紀地質学や地球化学の分野などとの連携を図り、理工融合の視点に基づいて研究を行っている。 また、有明海沿岸道路建設プロジェクトや有明海研究プロジェクト等のビッグプロジェクトにおける研究課題の推進および事業の支援を行っている。 さらに、地域、社会および国際に関する密な連携思想に基づいて、地盤工学におけるマイクロ・マクロメカニックス分野の確立および拠点の形成を目指している。

2. 分野の思想を支える複数のプロジェクトの採択と実施

(1)(独)日本学術振興会・平成23 年度科学研究費補助金・基盤研究(B)(一般)の採択
課題名:塩分・酸化還元環境の変遷が深層混合処理工法の品質管理諸量と地盤環境に及ぼす影響

(2)(独)日本学術振興会・平成23 年度科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究の採択
課題名:地球温暖化が地盤環境に及ぼす影響に伴う海成粘土の間隙再発達とメカニズムの検証

(3)(独)日本学術振興会・平成23 年度科学研究費補助金・基盤研究(B)(一般)の研究分担
課題名:地盤工学的・水工学的アプローチによる流域治水に関するフィールド研究(研究代表者:佐賀大学大 学院工学系研究科・大串浩一郎教授)

(4)佐賀県有明海沿岸道路整備事務所・平成23 年度受託研究の採択
課題名:有明海沿岸道路における盛土および基礎技術に関する研究

(5)文部科学省・特別経費の研究分担
課題名:有明海における環境変化の解明と予測プロジェクト(研究代表者:佐賀大学低平地沿岸海域研究セン ター・センター長・外尾一則教授)

3. 地盤工学におけるマイクロ・マクロメカニックス分野の確立および拠点の形成とは?

土の力学(マクロメカニックス)を地盤工学上の境界値問題を解く手段とみなすならば、土の物理化学的性質(マイクロメカニックス)は土の物性を記述するための基礎的知見といえる。 前者による数理的な手法では説明し得ない土の現象について、後者の視点による解明によって記述し得ることが多い。 しかしながら、これらの両視点は、同じ土とはいえ今なお要所で都合よく組み合わせられるにすぎなく、統一的なストーリーを有する学問体系としての道のりははるかに遠い。

第四紀地質学、堆積学や地球化学等の理学分野、さらには水理学、河川工学や生態工学等の工学分野を背景や連携とすることで、真のマイクロ・マクロメカニックスが確立できる可能性がある。 この視点は、すでにベースとなる多くの研究・教育実績を挙げている有明海沿岸低平地域でこそ実証される可能性が高く、 上記2.(2)に掲げた(独)日本学術振興会・平成23 年度科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究の採択が公的な後押しとなる。 同研究の概要は次のとおりである。 迫り来る地球温暖化が地盤環境に及ぼす影響の予測と対策の一環として、地層の累重に伴う地盤の形成過程において、 海成粘土中の間隙は上載荷重の増加に伴い減少の一途をたどるとの地盤工学的通説に反する仮説の立証にチャレンジしてみたい。 つまり、海成粘土中の間隙は原初環境から2 次的な地盤環境の変化を伴う過程でむしろ変わらないか増加する。 結果として高鋭敏性・高圧縮性が生じ、地表面における種々の構造物に対して深刻な沈下・変形問題を生じせしめる。 このような大胆な仮説を立てて立証を試みる。

上記の視点はカナダのマニトバ大学、中国の上海交通大学、タイのスラナリー工科大学やインドネシアのハサヌディン大学の関係者との積極的な研究・教育交流を通じ、 いずれからも多くの賛同を得ているものである。 特にインドネシアのハサヌディン大学では、当センター・サテライト構想による連携のもと、早くも猛追しようとしている。 同大学では(独)国際協力機構(JICA)の積極的な支援により、今日の我が国では導入に困難を極めるマイクロメカニックスに関する高額分析機器類が一気に配備されようとしている。 また、同大学からは既に多くのスタッフや留学生が本学に派遣されてきており、本学の求める具体的な国際研究・教育連携の姿もほぼ確立されてきている。

今後は上記の挑戦的萌芽研究を基盤研究ランクに継続させることができるか否かが鍵であり、誰しも明瞭な研究・教育レベルの尺度にもなると考えている。 まさに、“挑戦”の今を過ごしている。