低平地・流域における地盤防災に関する研究

末次大輔

1.はじめに

低平地において高潮・洪水対策は重要な課題の一つである。河川堤防や海岸堤防などの防災地盤構造物は水害を防ぐ上で重要な構造物であり、 今後発生する温暖化による海面上昇や多発する豪雨によりそれらの機能維持・強化が必要となる。 低平地の軟弱地盤や盛土は固化処理により安定化が図られてきたが、感潮河川堤防で固化処理地盤の劣化により機能低下が生じつつある。 固化処理地盤等の基礎構造物は地上構造物とは異なり、取替えは極めて困難で補修は容易ではない。 将来にわたって低平地を水害から守るためには、既存堤防の維持管理技術の研究開発とともに、低平地の地形、地質条件でも高い耐久性をもつ堤防の構築技術が求められる。 また、近年は低平地背後の流域の傾斜地においても斜面崩壊や地すべりによる災害が多発しており、これらへの対策の必要性も高まっている。 本研究分野では、低平地・流域の特異性を踏まえて同地域の持続的な発展に貢献しつつ、温暖化がもたらす海面上昇や自然災害から低平地・流域を保全するための研究を行う。 主に以下の研究課題に取り組んでいる。

2.低平地・流域の地盤防災に関する調査研究(東北地方太平洋沖地震災害調査)

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により、東北・関東地方太平洋沿岸部は地震と津波の被害を受けた。 青森県ならびに岩手県北部を対象に、平成23年4月3日~6日に一次調査、7月13日~16日に二次調査を行った。 東北北部地域では深度5弱の地震動が観測されたが、沿岸部では地震動による被害よりも、津波が主たる要因と考えられる被害が顕著であった。 沿岸部の構造物の被災形態は、押し波、引き波の流体力による崩壊の他に、防潮堤裏法の侵食による崩壊、防波護岸では背後地盤の著しい損傷が見られ、 いずれも津波の越流を想定していないことによる崩壊であると考えられた。 内陸部では、法勾配の大きく、地下水が豊富な火山灰質土で構成される宅地盛土が崩壊した。低平地では高潮、洪水による越流、それに伴う堤体侵食、破堤が想定される。 大規模な洪水でも被害を最小限に抑えるためには、既存堤防の締固めの管理や法面保護などによって、耐侵食性を高める対策が必要である。

3.固化処理基礎を有する堤防の長期安定性に関する研究

有明海沿岸干拓地において固化処理工法によって構築された感潮河川堤防では、堤内地側の法先部で泥寧化や漏水・湿地した箇所が存在する。 また、堤外地側の河川低水路護岸法先では豪雨時の出水により洗掘崩壊した箇所が数多く確認されている、感潮河川堤防の漏水調査より、 塩分を含む河川水の浸透によって固化処理土が急速に劣化すると考えられた。 今後このような状態にある堤防の機能を維持していくためには、堤防の健全性、安定性の評価を行ってそれらを補修・補強していく必要がある。 そこで本研究では、感潮河川水の浸透による石灰ならびにセメント固化処理土の劣化機構の解明、劣化が進行する固化処理地盤の健全度の評価法、ならびに堤防の長期安定性の評価法について検討している。 海水の濃度、固化材添加量、浸漬時間を変化させた一連の劣化実験により、固化処理土に塩分を含む河川水が浸透すると、処理土中の固化成分であるCaが溶脱して劣化することが明らかになった。 海水濃度が高く、固化材添加量が小さいときほど劣化速度は大きく、劣化を引き起こす海水中の原因物質はMgであることが明らかになった。 また、劣化の進行に伴って、処理土の間隙径分布は母材の粘土のそれに近づいていくことを明らかにした。

4.高耐久性を有する軟弱地盤対策技術の開発に関する調査研究

人工林は間伐等の手入れや、適切な林齢に達した人工林を皆伐・造林することによって、温室効果ガスの吸収源としての機能を保つことができる. しかし,安価な輸入材の流通や林業従事者の減少によって大部分の人工林では管理が行われておらず,その機能を果たしていない。 佐賀県の低平地背後にも人工林率6割の森林資源が存在するが間伐がほとんど行われていない状況で、さらには人工林の荒廃により流域の斜面崩壊の危険性も増している。 一方、木材は地下水位以下では腐朽しないことがいくつかの地盤遺構より確認されている。 そこで本研究では、木材を使った筏と列杭を併用した複合基礎の開発、ならびに地盤中で使用する木材の耐久性に関する調査研究を行っている。 筏と列杭複合基礎における補強効果に及ぼす要因について模型実験ならび試験施工により、筏を結束しなくても地盤の破壊を防ぐとことができるが、 結束すれば地盤の変形をより抑制できることが明らかとなった。木材の耐久性調査では、約170年前に建設された三重津海軍所木製護岸の調査により、 木材の腐朽の程度は地盤中の酸化還元電位との間に相関性があることが認められた。