低平地の最適な水循環を目的とした総合水管理に関する研究

荒木宏之

1.はじめに

本研究の最終目標は、最適な「水」の循環利用を行うために「治水」、「利水」、「水環境」の各細目を連携した「総合水管理」の確立することである。 例えば、典型的な低平地である佐賀平野では「降れば洪水、晴れれば干ばつ」と言われ、洪水に対して非常に脆弱な土地である。 一方で、治水のみに重きを置きダム等の開発を進めたとしても、良好な水質が保たれなければ飲料水の確保に困難を来たす。 また、気候変動によって降水量の変動が起きる可能性があるなど、将来的な様々な事象に対応するためにも総合水管理の確立が必要である。
これまでは、洪水解析による治水の検討や水質浄化技術の開発を中心に研究を進めてきた。 治水に関しては、難予測性の強降雨強度、一般に言うゲリラ豪雨が佐賀低平地に降った場合の数値シミュレーションを行い、低平地の浸水特性について解析を行っている。 また、水質浄化技術の開発に関しては、発泡廃ガラスによる河川水、池水の直接浄化技術の他、水質浄化用の材料開発などを企業と共同で行うなど、実効性のある技術開発を推進している。 現在では資源回収技術でもある「HT/Zeリン回収法」を開発中である。

2.数値シミュレーションによる佐賀市街地浸水特性の解析

佐賀市街地を対象として、河川・氾濫原・下水道の統合流出モデルであるNILIM2.0を用いて洪水解析を行い、対象地域の基本的な浸水特性を明らかにした。 地盤高にはLPデータを適用した。これは5mメッシュ、標高刻み10cmの数値地形情報である。

図1 (1)平成21年7月豪雨を用いて、その時の市街地の浸水状況を再現した(図1)。 計算結果から、①実際の浸水区域と計算結果は概ね一致する、②但し、合致度の悪い区域ではクリークの集約化と標高値の与え方が不適切であり、今後改善の必要がある、ことが分かった。 また、RCM20で年間降水量が増加する概ね50年後の平均的降雨を与えた計算結果から、③浸水状況は格段に深刻な状況までは悪化しないものの、海面と河口水位の上昇、外水を勘案した評価が必要であることが示唆された。

(2)難予測・強降雨強度豪雨の例として平成13年鹿児島で観測された豪雨を与えて同様の計算を行った。 その結果、④短時間の集中豪雨により浸水区域と浸水深が大幅に拡大する、⑤同一総降水量を24時間で降らせた場合との比較から、 ポンプの能力よりもポンプ場までの集水遅滞がネックとなるという低平地の特性が大きな要因となっている、などを明らかにした。

図1 (3)浸水対策の基礎的検討として、現状のクリークとポンプ排水量を変更して検討した(図2)。 その結果、⑥クリークの幅、水深の拡大という遊水効果が認められ、特に待機水深の低下は浸水量、減水時間の低減に効果的である、 ⑦既存ポンプの排水量増強は浸水量、減水時間とも効果は小さい、⑧ポンプ排水量増強分を適切な場所へのポンプ増設として行った場合、最大浸水量は変わらないが減水効果は大きい、などを明らかにした。

3.新技術「HT/Zeリン回収法」の開発

リンは肥料としての需要が高く、農業では必須資源の一つである。しかし、国内では産出されていないため全量を輸入に依存しており、世界的に見ても枯渇が危惧されている。 近年では米国や中国が輸出規制を行い、原料であるリン鉱石の輸入価格が高騰した。その結果、リン回収の重要性が高まり、国交省では下水汚泥のリン資源化について検討している。

HT/Zeリン回収法とはリン酸を吸着する「ハイドロタルサイト(HT)」とアンモニアを吸着する「ゼオライト(Ze)」を併用した吸着式のリン回収法である。 リン回収法は既に実用化されている技術もあるが、いずれも高リン濃度廃水が発生する汚泥処理系への適用に留まっている。その一方で、本法では低リン濃度の下水からリンを直接回収することが可能である。 また、吸着材に処理対象水を接触させるだけで処理が可能という吸着法の特長を活かし、高濃度・少排水量の廃水、例えば畜産排水などに対しても新たな適用が見込まれる。

図1 図1 2010年度に基礎的な検討を経て本技術の原理が実行可能なことを確認しており、既に特許も出願した。また、2011年からは県内企業2社と共同研究契約を結び、実用化に向けた実証試験を佐賀市内の下水処理場で実施している。 図3はその実験装置である。図中の2つのタンクにハイドロタルサイトとゼオライトをそれぞれ充填し、そこに生下水を通水させ、タンクの流入出水の水質を分析することでリン酸やアンモニウムの吸着現象をモニタリングしている。 図4は、ハイドロタルサイト充填タンク流出入水のリン酸濃度のモニタリング結果の一部である。実験開始から10日までは流入水中のリン酸をほぼ全量吸着しており、その後はリン酸濃度が飽和に近づくにつれて流出濃度が徐々に上昇する傾向となった。 生下水中には多種の陰イオン(CO3-、SO2-やNO2-)も含まれており、これらはリン酸の吸着を阻害する。本試験でもリン酸吸着が阻害されていると考えられるが、リン酸の吸着は十分可能であることを確認した。 本試験は平成24年末まで行い、平成25年度を目処として実用化に向けた開発を進める予定である。

4.まとめ

 以上のように、治水分野では、未だデータの精緻化などの課題が残されているものの、その検討手法については確立することができた。 水質浄化の分野では、HT/Zeリン回収法だけでなく、材料開発なども継続的に行い、種々の水問題に対して柔軟に対応する予定である。