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 「土の構造に着目した軟弱粘土地盤の解析に関する最近の動向」
 に関する講演会を開催して






有明粘土の土構造情報交換会

有明佐賀空港見学会

東与賀海岸見学会

懇親会の1コマ

野田利弘博士講演

金田一広博士講演

ディスカッションの1コマ

ボーリングコア説明会

有明粘土実験見学会

 去る平成16年10月18日(月)〜19日(火)にかけて、名古屋大学野田利弘博士と金田一広博士にご来佐いただきました。

 両博士との出会いは、平成13年度、京都大学防災研究所三村衛博士の主宰による共同研究、「洪積粘土の構造特性と大阪湾岸の埋立地における長期沈下メカニズム解明に関する研究」、において、筆者も共同研究者としてお招きいただいたのがきっかけでした。その共同研究の中で両博士のお話を聞いたとき、脳裏に衝撃が走るような感触を受けたことを今でも鮮明に覚えています。いつか佐賀にお越しいただきたい、そう思っていた矢先の16年度は中頃、野田博士からある論文チェックのご依頼を受けました。この機会を逃す手はないとばかりに、その後矢のような連絡を送り、今回の実現の運びとなりました。

 その後講演会の内容について考え始め、当初は一方的な情報の引き出しは良くないと、名古屋大学グループと佐賀大学グループによる相互の話題提供を考えました。しかし、これでは時間配分があまりにもタイトになってしまいます。佐賀大学グループによる土の構造に着目した研究に関しては、これまで何度か講演会を開催していますし、ここは両博士のお話に集中させていただき、代わりに前日、当方からの話題提供を行うことを考えつきました。このような経緯で、両博士には到着していただくや否や、「有明粘土の土構造に関する研究の動向に関する情報交換会」、と称する行事を皮切りに、あれこれ連れ回し始めました。さぞお疲れになったのではないかと思います。

 情報交換会では根上武仁博士に話題提供をお願いしたのですが、あいにくとその前から風邪をこじらせていて、疲労困ぱいの様子でした。ご苦労様でした。ここでの目的は、解析的見地から、あるいは調査・実験的見地から、土の構造をどうイメージし捉えているのか整合性を図りたいということでした。議論を通じてわかったのは、身近な例にたとえれば、前者は豆乳が豆腐に変化するような過程を土構造の発達と捉え、その破壊が進んでいく過程を構造劣化とイメージされている、ということでした。これらのことに対し、後者の場合は人骨が骨粗しょう症を帯びるような過程を構造の発達、あるいは構造の高位化・劣化、とイメージしている、ということでした。うーん、なんだか例えに今ひとつ自信がもてません...

 情報交換を終えてから、両博士を有明佐賀空港にご案内しました。あいにくと台風前で天気が悪かったのに加え、稲刈り後のワラを野焼きしている時間帯でもあり霞がひどく、有明海や干潟の絶景をお見せすることはできませんでした。では直に干潟へとご案内するも、黒木君の運転する車は道と呼ぶにはあまりにも険しい堤防道路を突っ走りましたので、スリリングに満ち溢れました。何とか干潟に到着し、その後は河川敷に堆積する泥の見学を終えて大学に戻ったのですが、両博士におかれましてはきっとその間のドライブのほうが印象深かったのではないかと思います。その後懇親会を経て、翌日の講演会に備えました。

 現地見学の間に山田正太郎博士(福岡大学)のことに話題が及び、両博士が急きょ呼び出そうと電話されました。山田博士は両博士の後輩にあたりますが、福岡在住なのにそんなに急にお呼び出しできるのか、と思いきや、本当に駆けつけて下さいました。急きょお車でのご来訪でしたので、懇親会では飲まずにお付き合いいただくばかりか、果ては両博士をホテルまで送り届けて下さいました。学位論文のご執筆も控えられている時分、たいへんお世話になりました。

 さて講演会ですが、野田博士からは、「砂と粘土はどう違うか〜砂の締固めと粘土の圧密、構造・過圧密・異方性を有する砂・自然堆積粘土の力学挙動〜」、と題してご講演いただきました。5部構成による濃密なご講演でした。構成則やその概念を中心とするお話で、この種のご講演はさもすると理解に苦しむことが少なくありませんが、野田博士のそれは打って変わってたいへんわかり易い内容に仕立てて下さっていました。おぼろげながらも今更ながら、構成則について理解できたように思います。冒頭に、脳裏に衝撃が走るような感触を受けたと述べましたが、両博士のご講演で改めながら感銘を受けるのは、現行の土質力学、あるいは構成則の主流を成したカムクレイモデルに対して、「(塑性材料と言いながら、実は力学性質が不変の)「死んだ土」」、ときっぱり言って退けられることです。そこで(橋口公一博士による下負荷面モデル(橋口博士は「かふかめん」モデルと呼ばれるそうです)を基調とする)上負荷面モデル(「うえふかめん」モデルと呼ばれるそうです)の登場、その概念から実践、へと話題の内容は移っていきました。

 筆者がなぜ感銘を受けるのか。それは、堆積環境の視点に基づく有明粘土の研究を進めていて、ある壁に突き当たったことにさかのぼります。有明粘土は高鋭敏性・高圧縮性・高摩擦性であり、これらのメカニズムに塩分溶脱現象が関わっていることは間違いありません。一方、有明粘土は正規圧密状態の粘土として、工学的問題に及ぼす影響に関する研究が進められています。ここで、有明粘土が本当に正規圧密状態にあるならば、塩分溶脱現象に伴ってその土構造は低位化するはずですから、自ずとその鋭敏性・圧縮性も低下するはずです。地盤沈下は一層深刻に進んだことでしょう。されどその粘土地盤は軟弱ながらも、工学的問題に及ぼす影響は少なくて済んだでしょう。ところが実際は違うのです。土構造に関する研究は避けられない。理学・地質学分野の力を借りて、調査・実験的見地からもう一歩で前述した矛盾点を解消できる、と思っていた矢先に、両博士のご研究に巡りあえたのです。まさに理学から、地質学、土質力学、地盤工学、果ては地盤環境学にわたって一貫性のある有明粘土のストーリーが綴れそうなのです。ときめくなといわれるほうが無理です。

 金田博士からは、「地下水揚水に起因する広域地盤沈下の解析」、と題してご講演いただきました。仮想な自然堆積地盤を対象に、水〜土連成弾塑性計算により地下水位低下に起因する地盤沈下のメカニズムを探られるご研究でした。構成式には、構造・過圧密・異方性を表現できる上・下負荷面修正カムクレイモデルが用いられています。こちらのご講演で衝撃的だったのは:1)地下水位低下があるレベルを超えると遅れ大沈下が見られる。これは構造の喪失に起因する塑性圧縮軟化による過剰間隙水圧の上昇によること;2)1次元多層系地盤では、地盤深部の粘土層にも遅れ大沈下を引き起こし、数百年に亘る可能性があること;3)地下水位低下の履歴を受けた地盤は乱され、新たな荷重に対して脆弱になっている可能性があること、などでした。金田博士は始終慎重にご講演されていたことをあらかじめ申し添えておきます。それでもなお、土構造に関する観点を共有することができるようになった今、少なくとも筆者は決して無視できない問題と考え始めています。その後、当日の参加者の間でたくさんの議論がなされています。

 一部筆者の誤解、誤記等もあると思いますので、当日のご講演に際して両博士からご教示いただいた関連資料およびその出典先を併記します。詳しくはそちらをご一読いただけると幸いです。

 講演会を終え、中村六史博士のお計らいをいただき、午後からは株式会社親和テクノにお邪魔しました。ボーリングコア説明会、有明粘土実験見学会、土構造に関する研究の今後に関する検討会、などを行いました。最後に、今後も連携を深めることを誓い合って、両博士とお別れしました。

日野剛徳 記

講演会の開催に際してご紹介いただいた参考資料一覧:

1)Asaoka, A., Nakano, M. and Noda, T. : Superloading yield surface concept for highly structured soil behavior, Soils and Foundations, No.40, Vol.2, pp.99-110, 2000.

2)Asaoka, A., Nakano, M., Noda, T. and Kaneda, K. : Delayed compression/consolidation of naturally clay due to degradation of soil structure, Soils and Foundations, No.40, Vol. 3, pp. 75-85, 2000.

3)Asaoka, A., Noda, T., Yamada, E., Kaneda, K. and Nakano, M. : An elasto-plastic description of two distinct volume change mechanics of soils, Soils and Foundations, Vol. 42, No. 5, pp.47-57, 2002.

4)金田一広,山田正太郎,浅岡顕:地下水低下に起因する地盤の遅れ圧密沈下のメカニズム,土木学会論文集,No.743/L-64,pp.89-103,2003.

5)田代むつみ,野田利弘,中野正樹:土の骨格構造の働きに着目した「擬似過圧密効果」の一考察,応用力学論文集,土木学会,Vol.7,pp.589-596,2004.

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