アメリカ・フロリダ滞在中におけるいくつかの話題

低平地研究センター・山西博幸

1.はじめに

このたび,文部科学省平成15年度創造開発研究海外調査旅費経費及び大学研究費の補助を受けまして,平成15年7月から平成16年7月末までの約1年間,アメリカ・フロリダ大学へ研究留学いたしました.主な目的は泥干潟沿岸域での底泥輸送にかかわる情報収集とアメリカ・ヨーロッパでの沿岸生態系にかかわる研究者との情報交換を行うことです.ここでは,私がアメリカ,特にフロリダ州ゲインズビルでの滞在中に感じたことや興味ある事項についてみなさんにいくつかご紹介いたします.

2.フロリダの環境について

2.1 フロリダの基本情報

フロリダ半島:南北距離1267km,幅240km,海岸線2880km,州都:タラハッシー,総面積:15万1714km2,人口:1440万(アメリカ第4位),平均気温:夏・北部26.9℃,夏・南部28.2℃,冬・北部11.7℃,冬・南部20.3℃,ニックネーム:サンシャイン・ステート,日本との時差:14時間(夏時間の場合,13時間)

2.2 フロリダの環境問題

水質汚濁(1500万近くにも上る人間活動から出される汚水や排水による自然生態系への影響),土地の疲弊(フロリダ中央部に豊富な資源として燐鉱石採掘による副産物としての巨大な窪地の形成や生態系破壊),大量のゴミ問題,酸性雨とオゾン,気象変化,海岸浸食,リーフの消失,魚類の減少,人口増加,イメージの低下,電気代の高騰,環境教育

2.3 南フロリダ半島の水管理

フロリダ半島の水管理は市政区等に関わりのない5つの流域水管理局によって運営されています.昨年11月半ばにそのうちの1つである南フロリダ水管理局(SFWMD)で話を伺う機会を得ました.

事務所では専務取締役のヘンリー・ディーン氏と海岸生態系のプロジェクトマネジャーのアグネス・ラムズリー女史に説明をしていただきました.彼らの説明によると,南フロリダ水管理局の管轄区域は,オーランドからオキチョビー湖,そしてエバーグレースを通ってフロリダ湾に達するまでの流域になります.SFWMDは主にエバーグレイズ(Everglades)の生態系に配慮した水管理を大規模に実施していますが,エバーグレイズとは文字通り,広大な湿地帯を意味しており,オキチョビー湖からフロリダ湾やメキシコ湾に至るまでの平坦な流域を指しています.ところがこの一帯を縦断する形で建設されたI-75によりオキチョビー湖から下流側の生態系が破壊され,流域の洪水調整とともに生態系を配慮した水管理を実施されることになった経緯があるようです.

また,オキチョビー湖の南に広がる農耕地から排出される水質,特にリンに着目した浄化を実施しています.具体的な数字としては,オキチョビー湖の南北を通過することで初期のリン濃度が300-400mg/Lから150mg/Lに低下し,その後,農耕地を経由して70-90mg/L,さらにSFWMDが建設を進める湿地施設Stormwater Treatment Area(STA)にて10-30mg/Lまで濃度を低下させているとのこと.エバーグレースでのかつてのリン濃度が10mg/Lなので,この値を目標値としているようです

当初,メンテナンスフリーの浄化施設ということでどんなものなんだろうかと,とても興味を持っていたSTA での浄化原理ですが,単に植生などの自然の浄化を期待したものでした.植生としてはキャットテール(ガマ)を指標としたりしているようです.アメリカでは土地が膨大ですし,あまり細かな話しをするよりも対処療法的な話しからはじめても十分なんだろうと思います.

そのほかにも,I-75によって寸断された水の流れは,1/2,1/4マイルごとに道路下に200本のパイプを通すことで改善していることや水質(主にP,N,Hg)のモニタリングを実施し,5年に1回の再検討を行うようにしていることや地下水の保存という立場から1.2million エーカー(1エーカーは40.469アール)の貯留施設を建設し,ポンプによって表層水を地下に送り込んでいるという話しもありました.

3.フロリダ大学について

フロリダ大学は,フロリダ州ゲインズビルにあります.ゲインズビルは,フロリダ半島北部中央付近に位置し,緯度的には沖縄と鹿児島の間になります.日本からはデルタ航空が成田からアトランタ経由でゲインズビル空港へ乗り入れしています.日本からアトランタまで12-14時間,アメリカ南部の大都市・アトランタから飛行機で1時間程度です.ゲインズビルの人口はわずか10万人足らずでその大半が大学関係者や学生,そして大学付属病院関係者ではないかと思われます.また,空から見たゲインズビルは,森と平原の中にあるいなか町といった感じです.そんなことからか,ゲインズビルはアメリカでもっとも住みやすい町に選ばれたこともあるそうです.

フロリダ大学(University of Florida)の学生登録者数は4万8千人で,アメリカ第4のマンモス大学であり,工学部内でも8つの学科があります.私の所属先はDepartment of Civil and Coastal Engineeringの中のDivision of Coastal and Oceanographic Engineeringです.日本語でいうと土木海洋工学科・海岸海洋部門といったところでしょうか.海岸海洋部門はアメリカ国内でもトップクラスの研究拠点として最先端の研究を実施しています.学科があるWeil Hallという建物は赤煉瓦を基調としたもので1940年代に建設されたものだそうです.私が渡米した頃にちょうど内外装の改修が完了したところで,まだ部屋の整理が十分されていない様子も見られました.私は,在外研究を受け入れていただいたメータ教授(Prof.Mehta)の配慮により,名誉教授の空き部屋を間借りさせていただきました.毎朝7時30分に娘をプレスクール(小学校内にある幼稚園)に連れて行ったあと,大学に出勤していました.7時50分には大学に到着しますが,すでに多くの駐車場ではそのスペースが埋まる状況で毎朝車の駐車スペースを探すことから私の大学活動が始まります.

さて,学部学生の必要取得単位数は131単位で,その内訳は基礎科目・52単位,基礎工学・11単位,土木工学関連単位・53単位です.またUFでは,セメスター制と呼ばれる学期制を採用しています.これは半年間の2学期制を意味しますが,ここでは16−17週間を1学期としているようです.2003年のスケジュールによると,秋学期(fall semester,8月21日から12月22日),春学期(spring semester,1月5日から5月3日),夏学期A(summer semester A,5月7日から6月22日)と夏学期B(summer semester B,6月25日から8月9日)と続きます.

セメスターというよりもクオーター制(Quarter)で3学期とサマースクールのようです.学費は1単位(one credit)当たりにつき1ー2万円だそうです.ところが,海岸海洋部門に昨年8月から留学中の日本人女子学生(修士課程)の話しによると,1単位が6〜8万円ぐらいかかるそうです.したがって,UFに納入した秋学期の授業料が100万円近くになっているそうです.どうも現地の学生とそうでない学生とで単位の単価が違うようです.メータ教授の話しによると,アメリカのほとんどの大学で他州からの学生(海外を含む)と現地の学生とで学費に差をつけているとのこと.日本では国立大学法人化にあたり学費の裁量が大学に一任されるようですが,日本でこのシステムが馴染むかどうかはよくわかりませんが,いずれにしましても,今後,アメリカの大学への留学や企業からの出張などをお考えの方々は訪問先の関係者と十分に資金面での交渉(negotiation)を行っておくことが必要でしょう.

どうでも良いことですが,ゲータレードという飲料水をご存じの方も多いかと思います.じつはこれを開発したのがフロリダ大学です.自動販売機にはいろんなフレーバーのゲータレードがあります.ちなみにフットボールチームの名称はゲーターズ(Gators)で,ゲーターズのホームゲームではゲインズビル全体がお祭り騒ぎとなります.もちろん,その日は大学には入れません.

そのほか,UFでは写真付きのIDカードが各人に発行されます.アメリカ社会では何かとPictureID の提示を求められますが,大学内でも同様です.このカードを所有するすることで,インターネットアドレスの登録や図書館の入室,各種必要書類の発行から夜間の建物内への入退室にためにキーとしても使われます.加えて,これにはデビットカードの機能も付加されます.佐賀大学でもこのようなPictureIDカードの利用を考えても良いのではないかと個人的には感じています.

4.ゲインズビルでの日常生活

4.1 銀行

日本でもクレジットカードやデビットカードによる支払いもずいぶん増えてきましたが,100円,200円程度の買い物にクレジットカードを使用する人はまずいないでしょう.しかし,アメリカ人は現金をほとんど持ち歩いておらず,アメリカでは現金よりもむしろカードによる支払いが主流です.多額の現金を持ち歩くことで犯罪に巻き込まれるなどの問題があるからだと思います.慣れてしまえば現金支払いよりも便利です.私は日々専ら,チェックカード(Check Card)を多用していました.チェックカードを利用すると,銀行に預けた貯蓄用(Saving)のお金とは別に開設した小切手(checking)用の口座から引き落とされます.Saving Moneyには利息が付きますがChecking Moneyには利息が付きません.

利息は日本同様,アメリカもずいぶん下がってしまったと嘆かれるこちらの先生もおられますが,日本ほど悪くはありません.銀行にもよるのでしょうが,私が預け入りしていた銀行では$2,000 - $24,999で0.5%,$25,000 - $49,999で0.75%,$50,000- $74,999で1%でした.また,チェックカードとクレジットカードの違いは,その日のうちにお金が引き落とされるかどうかという点だけですが,インターネット上でこれらのお金の集計が家計簿を付けなくとも一覧できるためとても便利です.さらに,アメリカでは通帳が発行されずに,毎月明細書が送られてきます.そのほかインターネット上でのお金の移動も銀行窓口に行かずに行うことができます.日本でも今後デビットカードやクレジットカードによる支払いが主流となれば,すでに運用されているインターネットバンキング等の利用がもう少し普及するのではないかと感じます.ただ,まだ日本では現金商売が主流であり,やはり現金を財布に入れておかないと不安であることは間違いないと思います.

4.2 電話

最先端の国であるアメリカで電話がないのは車がないのと同じくらい困ることでしょう.各地方によって主要な電話局があるようですが,私が住んでいたゲインズビルにはBellSouthという会社がありました.開設手続きは,電話申し込みのみです.ネイティブや英語の堪能な外国人にとってはいちいち窓口に行かずに開設申し込みが出来るので便利でしょう.しかし,このシステムは英語が堪能ではない外国人にとって大変な苦痛です.しかも,開設のためのオペレーターと話すためには,まず自動音声の指示通りに何回もボタン操作が必要です.やっとオペレーターと話が出来たかと思いきや,猛烈なスピードでまくし立ててくる英語に「あーうー」と返事するのが精一杯で,そのうち自動音声に切り替わり,長時間待たされる羽目に.日本人仲間の話しによれば,開設するのに1,2時間待つのは当たり前だそうです.だいたい新居で部屋に電話がないのにどうやって電話で申し込むのかも疑問に感じるとともに,希望もしないオプションをどんどん付けられる羽目に陥ることもあり,2,3度試みたのち最終的にはネイティブに手助けしていただき,何とか開設までこぎ着けました.こちらの電話代は大変安価です.どんなに電話しても市内通話であれば月々18ドル程度です.自宅で1日中インターネットに接続しても電話代は変わりません.ただ,電話開設を手助けしてくれたネイティブの薦めもあり,オプションとしていくつか付加したので実際には40ドル程度支払い続けました.結局のところ,3-way phoneとかボイスメールなんか一度も使った試しもなく,やっぱり損をしました.

4.3 住居

滞在中は,コンプレックス(complex)と呼ばれる集合住宅に住んでいました.多くのアパートメントコンプレックスでは様々な施設があります.たとえば,プール,トレーニングジム,ジャグジー(噴流式気泡風呂),テニスコート,

バスケットボール上,バレーコート,子供用の砂場,そしてこれらを管理する事務所があります.私たち家族が住むコンプレックスにはスーパー,銀行,薬局,レストランなどの複合スーパーマーケットが隣接しており,比較的治安も良いところです.もちろん,月々の家賃も結構な額になりますが,こちらで生活するにはまずは治安の良いところが薦められます.私たちの間取りはデン(書斎)付き2ベッドルームでした.床はカーペットが敷き詰められていますが,当然日本人ですからこの上を裸足で歩きます.時々外部の外国人が土足で上がろうとするので玄関前には「Please take your shoes off」と掲げていました.しかし,頑として聞き入れてくれない人もいれば,相当な重量物を運搬する際の安全性からして履いておくべき人が快く脱いでくれたり,いろいろです.

4.4 サマータイム

アメリカではサマータイム制を採用しています.2003年は10月27日(日)午前2時をもって夏時間がおわり,時計を1時間戻しました.このとき日本との時差は14時間となります.夏時間の採用は,すでに多くの国で採用されているようですが,日本でも戦後4年間ほど採用されていたようです.省エネルギー,余暇活動の増進,家族団らんなどに有効であると評価されていますが,時間通りに日常生活をされている方々はその効果があるのかもしれません.しかし,私の周りの先生方はちょっと異常な時間の使い方をしている方も多く,夏時間を採用しようがしまいがあまり変わらない気もします.なお,たった1時間の時間変更でしたが,しっかり時差ボケしてしまいました.

4.5 車社会

アメリカは言わずと知れた車社会です.大都市で交通の便が良いところを除いては車無しの生活は考えられません.日本で言う郊外型のスーパーが主流のため,買い物には欠かせません.車道には「おいおい,大丈夫か?」というような老夫婦の運転する車や若い男性並みに猛

スピードでオープンカーをかっ飛ばしてくる女性などいろいろです.もちろん,公共交通としてバスや鉄道もあります.しかし,バスはそのルートや時間に制限があったりして自由度がずいぶん下がってしまいます.鉄道に関しては論外で線路はあるにはありますが,滞在中,列車が走っているのを見たことがありません.加えて,単線のためよく事故も起こるそうです.

このような中,フロリダ州法により長期滞在者は車の免許を取得しなければならないと定められています.日本を出発する際に国際免許証の発行をしてもらっていましたが,結局のところ,車の購入,レンタカー借用,保険あるいはPicture ID(写真付きの身分証明)としてこちらで運転免許を取得しておくことは得策なため,7月終わりに早速,運転免許を取得するために試験を受けました.受験2,3日前に教本なるものを試験場にて受け取っておりましたが,当初,身の回りのセットアップのためとてもゆっくり読む時間などなく,ざっと眺めて受検する羽目になりました.

 まず最初の問題は,自分自身の誕生日がいつかという問題から始まります.続いて,交通法規に関する20問と標識に関する20問が出され,5つまでの間違いは許されます.路上試験では,駐車場での車の操作確認のチェックが行われたあと,試験管の指示に従って車を操作します.「STOP」では確実に停車し,安全確認,急ブレーキ,車庫入れ(こちらでは頭からつっこむ),3-point turnなる操作(行き止まりに突っ込んで車を反転させる),下り坂の路肩近くにでの駐車(ハンドルを時計回りに回しておく),そして最後にはじめの駐車場の位置に戻ります.残念ながら路上試験では一時停止をうかつにも見逃してしまい,1回目の試験では落ちてしまいましたが,2度目の試験で何とか合格できました.

フロリダ州内の交通法規としておもしろい点がいくつかありました.たとえば,スクールバスが停車し児童の乗降がなされている間は対向車および後続車はバスが発車するまで一時停止しなければなりません.また,4 way stopの標識がある交差点では一番最初に交差点手前の停識がある交差点では一番最初に交差点手前の停止線に止まった車に優先権が与えられ,その順番に交差点を通過できます.同時に停車した場合は自分から向かって右側の車に優先権が与えられます.信号が無くともちゃんとみんな自分の順番を認識しながら運転することに感心しました.さらに,信号のある交差点で赤信号でも右折できるなどの合理的なシステムはさすがアメリカと思います.

そのほか車に関わる話しには事欠きません.たとえば,ある日曜日,急に,車の流れが止まりました.前方に大きな壁が見えます.あれ?行き止まりかな?警察のパトカーもあるので事故?よーく見ると大きな家でした.家ごと大型車の荷台に積んで移動の真っ最中.しかも道路6車線一杯を使って・・・.超大型車両が片側に移動し,警官の指示でやっと移動・脱出できました.日曜の昼前の出来事ですが,少々時間を考えて欲しいものです.しかし,珍しい光景を目にすることが出来ました.

5.おわりに

以上,主にアメリカでの生活で気になったことのごく一部について記述いたしました.私たちが帰国したあと,フロリダ半島では6週間に4個もの大型ハリケーンが来襲し,大災害をもたらしています.ゲインズビルでは町中の機能がダウンし,町のクリーンアップには数ヶ月かかるだろうとメータ教授はおっしゃっていました.そんなことを考えると,初めての長期海外生活を家内と小さな子供2人を引き連れ,様々な出来事に遭いながらも何とか無事に帰国できたことが何よりもうれしいことだったかもしれません.

 研究面に関しては,フロリダ大学での情報収集から干潟での現地調査についてヒントを得たり,粘着性堆積物の輸送に関する国際会議INTERCOH2005を佐賀で開催することができ,海外留学の成果を少なからず挙げることができたのではないかと思います.最後になりましたが,このような機会を与えてくださった文部科学省,佐賀大学低平地研究センターおよび都市工学科教職員のみなさまには心よりお礼申し上げます.